使用済みの紙から新たな紙を生産する『PaperLab(ペーパーラボ)』で北九州市を世界“進化”遺産に

「SDGs未来都市」の具体的なソリューションが新たな雇用を創出

福岡県、北九州市。
この地が「環境先進都市」であることをご存知でしょうか?
北九州市は、世界文化遺産に認定された官営八幡製鐵所(1901年操業開始)関連施設があるように、明治期から我が国の産業革命発祥の地として重化学工業の中心地として発展してきましたが、一方で、1960年代には深刻な公害など産業都市としての課題にも直面した地でもありました。
しかしその状況を打破すべく、市民・企業・行政が公害克服に三位一体で取り組むことにより、青い空と海を取り戻し、今でも産業と環境の共生をしっかりと保ち続けています。ものづくりへの情熱と環境意識の高さは、DNAとしてこの街に根付いているのです。

<「八幡東田まちづくり連絡会」会長 網岡健司さん>
<「八幡東田まちづくり連絡会」会長 網岡健司さん>

「2018年にはOECD(経済協力開発機構)が定めたSDGsのモデル都市にアジアで唯一選出され、国のSDGs未来都市にも選定されました。日本の産業革命発祥の地である北九州が、今度は世界のグリーン革命を引っ張る役割を担うことは歴史的使命なのです」と「八幡東田まちづくり連絡会」の会長・網岡健司さんは言います。
「もっとも、SDGsは環境のみならず、ダイバーシティや雇用の創出などソーシャルな価値にも踏み込んだ目標が設定されています。これまで経済と環境の共生を実現してきた北九州ですが、社会面での課題解決にも貢献できるテーマはないか、と模索していたのです」(網岡さん)

そんなとき、出会ったのがセイコーエプソン『PaperLab(ペーパーラボ)』でした。『PaperLab』は2015年に開発された、世界初(注)の乾式オフィス製紙機。ボタンを押すだけで、使用済みの紙を細長い繊維にまで分解。さまざまな厚さや色の再生紙がつくれるイノベーティブなプロダクトです。

(注)2021年2月時点、乾式のオフィス製紙機において世界初(エプソン調べ)。

「水を使わず(注)に再生紙をつくる。この1台があれば環境負荷が極めて少ないリサイクルの仕組みを取り入れられるわけです。しかも、操作が簡便なうえ、ただのOA用紙だけじゃなく、パッケージ用の厚みのある紙や名刺用の厚紙などまでカンタンにつくれる。このサイクルが具体的なかたちとなれば、新たな雇用の創出、社会包摂性や多様なセクターの協働なども実現できる。まさにカラフルなSDGsのターゲットを達成できるだろうと」(網岡さん)

(注)機器内の湿度を保つために少量の水を使用します。

「SDGs未来都市」の具体的なソリューションが新たな雇用を創出

そしてジョインしたのが、北九州市でさまざまな取り組みを積極的に展開する、障害福祉サービス事業所「BOCCHI」を事業のひとつとして運営するNPO法人わくわーくです。

最先端のテクノロジーを使い、社会課題解決に取り組む“やりがい”

「『ぜひやりたい!』と即答したことを覚えています」とわくわーくの代表・小橋祐子さんは振り返ります。
「我々が手掛けているのは、障害を持つ施設利用者の方々に、軽作業などの就労訓練を提供する福祉サービス。焼き菓子をつくったり、企業の下請けでちょっとした作業を請け負ったり。もちろん、対価として工賃を頂きますが、付加価値が低い単純作業が多いため、どうしても賃金が低いことが課題でした」(小橋さん)

大きな再生工場がなくても、再生紙を自らの手でつくれるようになるエプソンの『PaperLab』。しかも、再生紙をもとにした新たな紙製品もつくりやすい。新たな付加価値の高い再生紙プロダクトを、障害者の方々が自らの手で生み出せるようになります。エプソンはこの再生のしくみを従来のリサイクルではなく、付加価値を高める“アップサイクル”と呼んでいますが、まさにわくわーくが求めていた、仕事の付加価値をあげる仕組みだったわけです。
「最先端の新しい機械を施設利用者が自ら触れる仕事であることも大きかった。やはり仕事はいかに楽しく、興味あることを手がけられるかがモチベーションを左右しますからね。加えて地域の環境をよくすることを手伝えるとなれば、施設利用者にとって、とても誇らしい、やりがいのある仕事になります」(小橋さん)

<わくわーく代表 小橋祐子さん>
<わくわーく代表 小橋祐子さん>

こうして2020年10月、「八幡東田まちづくり連絡会」×わくわーく×エプソンの3者を中心に、北九州市の支援を受けるかたちで、『紙の循環から始める地域共創プロジェクト』がローンチしました。
まず『PaperLab』を、先端的なIT関連企業や研究機関、そしてセイコーエプソン北九州オフィスも入居する「九州ヒューマンメディア創造センター」の1階ロビーに設置。
「わくわーく」の施設利用者は、このオフィスの入居者、さらに地域の企業や自治体、学校などから出る使用済みの用紙を現地に赴いて収集。その後、集まった紙を分別したのちに、この『PaperLab』に投入して再生紙をつくる。
「彼らにとって、はじめての外での仕事。回収、仕分け、操作と仕事も少なくない。新しいことを覚えるのは施設利用者にとっては精神的な負担も大きかった。ただ、得るものはもっと大きくて」(小橋さん)
その一つは施設利用者が「仕事に誇りを持てた」こと。事後アンケートによると「他の仕事よりやりがいがある」「以前より価値がつくれていると感じる」と答えた人が圧倒的でした。

<アップサイクル品のイメージ>
<アップサイクル品のイメージ>

実際に、古紙回収の際に生まれる地域の方々とのちょっとした交流が楽しみとなっていたり、注目度の高い『PaperLab』の操作に携わることで自分たちの仕事に誇りが生まれたりといった、目には見えないポジティブな効果が生まれている様子。もちろん、再生紙でつくった名刺やパッケージなどによって、賃金も以前よりあがったそうです。

「障害者雇用においては『彼らは単純作業は苦にしないから、そういう仕事を頑張ってもらおう』と言われることもありますが、それは違うのでないか、と感じています。やはりクリエイティブな付加価値の高い仕事に挑戦することにやりがいを感じ、楽しんでいる方も多い。そんな効果も、今回の試みで明らかになればうれしい」(網岡さん)

地域のひとびとが混じり合い価値を生み出し続ける、世界“進化”遺産

環境、雇用、ソーシャルインクルージョン――。
SDGsの多面的なターゲットを満たす明快な“解”のひとつとなった本プロジェクトは、多くの教育機関からも注目を浴びています。
福岡教育大学附属小倉中学校から生徒たちの授業の一環としてアップサイクルされた紙の用途を、共同で考えていくプログラムが始まりました。また、福岡県立小倉高校は、このプロジェクトの一日見学を環境と経済と社会を学ぶスタディツアーの一貫に組み込みました。北九州市立大学 国際環境工学部 環境生命工学科 松本研究室は本プロジェクトの定性的価値を解析することで、「ソーシャルROI(社会的投資収益率)」を発展させて、SDGsにおける新しい評価指標を作り出そうとしています。
今回の試みが、また新たに地域のひとびとを混じり合わせ、環境と経済と社会をよりよくアップサイクルしていくための大きなトリガーになっていきそうです。
「北九州そしてこの八幡東田地区は、日本の産業革命発祥の地として世界文化遺産のある街となりましたが、この街の革命は過去形ではなく、現在進行形で進んでいます」と最後に網岡さんは印象的な話をしてくれました。
「世界のグリーン革命とSDGs実現の地への進化を目指し、今も新たな挑戦と様々な価値を生み出し続けている街。 そう、この地は、世界“進化“遺産なのです。」(網岡さん)
北九州市でエプソンが進める取り組みに、ぜひ今後も注目していきたい。

地域のひとびとが混じり合い価値を生み出し続ける、世界“進化”遺産