HackTrek 2021 優勝チーム──「コロナ禍で分断された放課後」をサービスでつなげたい
2021年2月末に開催された全国オンラインハッカソン「HackTrek 2021」。今回は、同ハッカソンで見事優勝に輝いた「すごくなりたいがくせいぐるーぷ」のメンバーの中から3名の方にお集まりいただき、オンライン座談会を実施しました。ハッカソン当時は、メンバー全員が高校生。そんな皆さんから、入賞アイデアが生まれた背景や現在進めているプロダクト開発にかける想いまで、様々な角度からお話を伺いました。
■「HackTrek」とは?
「HackTrek」とは、セイコーエプソン株式会社(以下エプソン)が主催するハッカソン。参加者は、「Epson Connect API」を用いて様々なAPIやサービスと組み合わせ、アイデアを具現化することを目指します。2019年に続き2度目の開催となった「HackTrek 2021」は、初の完全オンラインでの実施となり、全国各地から14チーム・総勢53名がエントリー。掲げられた「スマートシティを加速せよ」というテーマに対し、多種多様なプロダクトやサービスが生み出されました。
■エプソンがハッカソンを開催する目的とは?
「デベロッパーの方々との関わりを強化しながら、共創に取り組んでいきたい」「エプソンの持つリソースを活かし、斬新なアイデアを自由な発想で生み出していただきたい」「Epson Connect APIの利便性や魅力をより多くの方々に知っていただき、色々な場面でご活用いただきたい」──この3点を、エプソンは「HackTrek」を開催する主な目的に挙げています。実際に、今回のハッカソンにおける優勝・準優勝を始めとする入賞チームとも、すでにサービス化に向けたプロダクト開発をスタートしています。
オンライン座談会出席者
■高棟 雄斗様
すごくなりたいがくせいぐるーぷ エンジニア
■八谷 航太様
すごくなりたいがくせいぐるーぷ エンジニア
■富岡 大貴様
すごくなりたいがくせいぐるーぷ プランナー/デザイナー
■白鳥 浩平
セイコーエプソン株式会社 P事業戦略推進部
※本文中は敬称略
スマートシティと「Epson Connect API」活用への興味から生まれたハッカソン参加の意欲
──本日はお時間をいただきありがとうございます!まずは、皆さんが今回のハッカソンに参加しようと思った理由から教えてください。
高棟:そもそも僕自身がスマートシティに強い関心を持っていたんです。無事大学進学が決まってから会津若松のスマートシティについて調べていた時に、「HackTrek」を知り興味を持ちました。そして、所属していたオンラインコミュニティ「すごくなりたいがくせいぐるーぷ」のSlack上で、「一緒に参加してくれる人いませんか?」と声を掛けて参加メンバーを募集したんです。そうして集まったメンバーなので、そのコミュニティ名をそのままチーム名に使わせてもらいました。
八谷:最初に高棟君から「HackTrek」の話を聞いた時に、自分自身がエプソンのプリンターやスキャナーをあまり使ってこなかったからこそ、「Epson Connect API」を使った時に、どんなプロダクトやサービスを生み出せるんだろうと興味を持ちました。それに加えて、プログラミングに関してはこれまで、独学での個人開発しかしてこなかったので、ハッカソンを通じてチーム開発を経験してみたいと思ったことも、参加を決めた理由の一つです。
富岡:僕はもともとサービス開発とは別分野のロボット開発をしていました。また、ビジネスコンテストなどへの参加経験があり、そこで学んだいろいろなデザインやアイデア出し、プレゼンテーションの方法などをハッカソンという場でも活かせるんじゃないかと思い参加しました。
コロナ禍で見えた、分断された放課後時間への課題感
──改めて、今回優勝に輝いた「Catenary」がどのようなサービスなのか。そしてアイデアのポイントになった要素などがあれば教えてください。
富岡:「Catenary」は、“放課後マナビの架け橋”をコンセプトに開発した、放課後に先生にオンラインで質問ができるサービスです。教材の印刷機能や、ビデオ通話機能、チャット機能などがあり、生徒側は一覧から質問する先生を選ぶことができます。一方の先生側では、生徒から届いているリクエストの一覧を閲覧可能です。ノートスペースはオンライン上で直接書き込みもできるようになっています。
高棟:アイデア自体は、僕の実際の経験から着想を得ました。僕自身、高校時代は放課後に先生の元へ勉強の質問に行くような生徒だったんですが、高校三年生になった頃からはコロナ禍で完全オンライン授業に移行したことで、放課後の質問ができなくなってしまいました。その経験をもとに、オンライン授業でも先生たちに気軽に質問できるようなサービスがあったら、高校最後の一年間ももっと有意義にできたんじゃないかと考えたんです。実際にアイデアを固めていく上では、「スマートシティを加速せよ」というテーマに沿ったものを創り上げることに特に苦労しました。加えて、「Epson Connect API」を使うという前提ルールがあったので、それら全てを踏まえつつ、これまでにないようなサービスを創るという点で、話し合いを重ねました。何よりも、高校生活の半分以上をコロナ禍で過ごした自分たちだからこそ、生まれた課題感であり、サービスだったと思っています。
──実際のハッカソン期間中は、それぞれどのような役割分担でしたか?
八谷:僕はフロントエンド側の開発を担当していました。富岡君が創ったデザインに沿って、1日目はひたすらUIのスタイルを、2日目に関してはUIの後ろで動くクライアントのコードを書いていました。全体を通してコードのキレイさは後回しで、まずは時間内に動くコードを書きあげるだけで精一杯でしたね。
高棟:僕は全体の進行管理をメインに担いつつ、AWSの構築をしたり、開発が間に合っていないプログラミング領域のサポートに回ったりしていました。特に大変だったのは、1日目の深夜になってからバックエンド側のRustで書いていたプログラムがうまく動かないことに気付き、急遽Pythonで全部書き直すことになった時ですね。その他にも、ログインの認証部分やビデオ通話がうまく動作しないなど、開発全般はかなりバタバタしていましたが、プレゼン直前にはなんとか形になって良かったです。ちなみにUIに関しては、富岡君がデザインにすごくこだわってくれて、その甲斐あってめちゃくちゃカッコよくなったなと思っています。
富岡:僕はプランナー/デザイナーとして、UIのデザインやプレゼンテーション資料の用意を主に担当していました。デザイン面で特にこだわった点は、最近流行っていたNeumorphismというデザイン手法を採用したことです。デザイン的な使い勝手はもちろんですが、自分自身が創っていて楽しいかどうかも重視しているので、その点でも流行りものはぜひ取り入れたいと考えていました。
ハッカソンが終わった後も続いていく“共創”
──ハッカソンの感想とともに、現在エプソンと一緒に進めているプロダクト開発についても率直な想いを聞かせてください。
高棟:ハッカソン期間中がとても楽しかったことはもちろんですが、僕自身は、“終わった後があるハッカソン”という点で、特に新鮮さを感じています。これまで参加した他のハッカソンは、基本的に参加して結果が出たらそこで終了でした。一方で、終了後もエプソンさんがサービス化に向けたプロダクト制作をサポートしてくれるというのは、「HackTrek」ならではの魅力だと思っています。現在の開発でも僕はPM的な役割を担いつつ、プロダクトの方針などを、富岡君と話し合いながら進行中です。継続的な保守性を考慮したり、長期的なスケジュール管理のためにスクラム開発を取り入れたりと、ハッカソン中とは違うやり方が必要になってきているので、日々勉強になっています。
八谷:僕はチーム開発自体が初めてだったので、チーム開発はこれほどまでに楽しいものなんだなと思いました。加えて、しっかりと整備された環境で開発できることの魅力も感じることができました。現在エプソンさんと一緒に進めている開発については、ハッカソン時と同じくフロントエンド側の開発を担当していますが、とても学びが多いです。
富岡:チームの皆が自分の役割を持って個人の力を発揮している様子は、率直に見ていてとても気持ちがいいなと思いました。現在の開発フェーズでは主に情報収集やヒアリングなどを担当していますが、もともと自分たちの立てていた仮説と実際の調査とで違う結果も出てきたりしていて、面白さを感じています。それこそ、仮説の実証実験などはハッカソン中にはできないことなので、サービス化に向けて今後特に頑張っていきたいですね。
──それでは最後に、皆さんのこれからの目標を教えてもらえますか?
八谷:「Catenary」に関しては、もちろんこれからも開発者の1人として継続的に関わっていきたいと思っていますし、個人的にはウェブ開発を勉強しつつ、ブロックチェーンや暗号技術などについても学びを深めていきたいです。この分野でしっかりプロフェッショナルになれるように頑張ります。
富岡:もともと、プログラミングやデザインとは別に起業にも興味があったんですが、「Catenary」の開発に携わってみて、よりその方向へも進んでみたい気持ちが強まりました。加えて今後は、プロモーション、コミュニケーションなども考えられて、その上でマイコンやアプリ開発もできるような、一通りをこなせるエンジニアとして成長していきたいと思っています。
高棟:まずは「Catenary」によって、世の中の中高生の学校生活がより快適になれば嬉しいです。そのためにも、まずは多くの人に使ってもらえるようなサービスをしっかり創り上げたいと思っています。技術力不足で創れないことが一番悔しいと思うので、そうならないための知識やスキルを身につけていきたいです。
今後を担う若手の方々との共創も推し進めていきたい
──「HackTrek 2021」の審査員の方々から見て、「すごくなりたいがくせいぐるーぷ」の皆さんの「Catenary」というアイデアは、どのような点が評価のポイントになりましたか?
白鳥:特に課題設定が、チームの皆さん自身が身を持って感じている課題であったこと、そしてその課題に対して自分たちで解決していこうというプロダクトであったことが、高い評価につながりました。また、「Catenary」の特徴の一つでもある、スキャンした教材を先生と生徒がオンラインで共有しながら話ができるというのも、これまでにはなかなか無かった発想でした。「文字だけの会話では、なかなか本音での会話や本題から外れたような雑談がしづらい」ということをプレゼンでチームの皆さんがおっしゃっていたのですが、そういった学生目線でのリアルな想いも、このプロダクトの必要性への納得度をより高めたように感じています。
──「すごくなりたいがくせいぐるーぷ」の皆さんと現在進めているプロダクト開発について、エプソン目線での感想や想いを聞かせください。
白鳥:皆さんは企業ではなくいわゆる個人のコミュニティになるので、まずは率直に、こうして継続的に共同開発をしてくださっていることにとても感謝をしています。また、教育に対する課題は社会に多くあると考えていますが、それを現場の当事者でもある学生の皆さんと共に考え解決を目指していけるというのは、弊社にとっても非常に意義のある取り組みだと考えています。現在、チームの皆さんとは定期的なミーティングを通じて、進捗や方向性などを共有しながらプロジェクトを進めているところです。先生や生徒などのユーザーの方々に使ってもらった上でのヒアリングも一緒にさせていただいていますが、とても有意義なフィードバックをいただけているので、今後はサービス自体をブラッシュアップしていきながら実証実験までぜひ進めたいと考えています。「Catenary」が教育現場における新たなコミュニケーションツールとしてサービス化され、広く利用していただけるものとなれば、弊社としてもこれほど嬉しいことはありません。
──現在学生の方や、今後を担う若手の方々に対して、エプソンとして期待していることがあれば教えて下さい。
白鳥:年齢や経験のみに囚われず、若い方の発想やこれまでになかった新しいアイデアを実現していけるという点は、まさにITやソフトウェア領域ならではの面白い部分です。実際に、弊社が現在、“オープンイノベーション”や“共創”をキーワードにパートナー様と一緒に進めているプロダクト開発にも、スタートアップや学生を含めた個人の方がすでに多くいらっしゃいます。そもそも「HackTrek」を開催している背景には、デベロッパーの方々との関わりをさらに強化していきたいという想いもあるため、ぜひ学生の皆さんを含め、広く弊社の姿勢や取り組みを知っていただければと思っています。弊社はハードのイメージが強い企業でもありますが、サービスやソリューションの面でも提供できるリソースは数多く保有していますので、全国のデベロッパーの皆様と並走しながら、今後も社会課題の解決に取り組んでいきます。
取材実施日:2021年6月
記載の組織名・所属・肩書き・取材内容などは、すべてインタビュー時点のものです