子供たちにとって何が出来るか-教育領域へのイノベーション
今回は、Epson Connectのメールdeリモート印刷およびスキャンtoクラウド機能を活用した学習支援サービスを導入いただいた株式会社 idea spot(イデアスポット)代表取締役の竹山隼矢様と、セイコーエプソン株式会社DX戦略推進部で教育領域を担当する原基彰がオンライン対談を実施。サービス導入時に交わしたやり取りを振り返りながら、教育領域におけるDX推進の現状や、今後の展望などについても語り合いました。
■竹山 隼矢 様
株式会社 idea spot(イデアスポット)代表取締役
■原 基彰
セイコーエプソン株式会社 DX戦略推進部
※本文中は敬称略
原:
DX戦略推進部発足当初、教育領域を担当していたのは私一人でした。それから一年程が経ち、今では、「教育」「学校」「学習塾」などのワードが、トップからも営業からも日常的に聞こえてくるようになっています。自分が考えていた以上に社内の期待値が高く、最近は少し怖さも覚えるようになりました。
竹山:
多くの人たちが関心を持ちやすい領域なのでしょう。今回のイデアスポットにおける導入事例では、コロナ禍において急遽生じたオンラインでの教育を補完する役割が大きかったですが、私もいろいろな可能性を感じる場面がたくさんありました。例えば、原さんから「プリント教材はアフリカにでも送れますよ」という話を聞いたときにすぐ思い浮かべたのが、現在、海外に住んでいて、近い将来、日本に帰国する予定がある子どもと、そのご家庭の受験サポートについてでした。特に日本との時差が大きい国や地域などでは、大きな導入効果が見込めると踏んでいます。
原:
弱点補強プリントを活用した添削指導であれば、確かに時差はあまり関係なく、個別最適化した丁寧な指導ができそうですね。
竹山:
ちなみに今の中学受験の制度では、帰国子女枠での受験資格が「帰国後2~3年以内」となっているところが多く、そうすると長年海外で暮らし、小学3年生までに帰国した子どもは大きなハンデを背負って受験に臨むことになります。これまでも親御さんの中には子どもの将来を思い、海外赴任を諦める人がいるという話を聞いてどうにかできないものかと考えていました。この問題をEpson Connectの学習支援サービスでケアできれば、当社の販路拡大というだけでなく、日本の優秀な頭脳が海外に出て活躍するのをイデアスポットが後押しすることにも繋がると、想像を膨らませていました。
原:
私たちが社内で、よく話をするのは、自分たちの技術やサービスを活用して、教育格差の是正に何か寄与することはできないかという話題です。たとえば、暮らしている地域によって教育格差が生じるのは、今や誰もが認めるところだと思います。現在、福島県の会津若松に開設した「DXイノベーションラボ 会津」でも、過疎地域における教育機会の確保を目指し、当社のプロジェクターを使って離れた教室同士を、あたかも一つの空間のように繋げる遠隔教育の実証実験をはじめています。通信環境がよければ、すでにかなりの没入感が得られるクオリティです。これに今回のプリンターとスキャナーを使ったサービスを組み込めば、学びの幅はさらに広がりそうだと思いました。
竹山:
最近、缶コーヒーのテレビCMで見かけるリモート温泉のようなイメージですね。さきほど一足飛びに海外の話をしましたが、今でも京都以外のエリアからイデアスポットのプリント教材による指導を受けたいという要望をよくいただきます。求める学習の機会が思うように得られないケースは、公教育ではもちろんのこと、私教育でも決して珍しいことではありません。これはぜひ実現してもらいたいですね。
原:
今回、導入いただいた学習支援サービスや、今、話した会津若松の事例の他にも、当社では現在、学校通信の作成を支援する「Epson CoCo-Creator」など、先生たちの業務改善に繋がるサービスやプロダクトの提供にも力を入れています。こうした教育業界のニーズについて、竹山さんはどのようにお考えでしょうか。
竹山:
教育関係者の働き方改革については、学習塾も他人事ではありません。イデアスポットでも以前、優秀な一人の講師に業務が集中してしまうということがありました。ですから、できることはどんどんICTで補っていけばよいというのが私の考えです。例えば、ログ解析などは、AIやロボットの方が絶対に得意。わざわざ人が頑張る必要はありません。ただし、その解析結果をどのように評価するかまでAIに任せてしまうのはどうかと思います。例えば、AIに「一人ひとりに合った最適解を提案しました」と言われても、何を根拠にそう判断したかがよくわからないと、なかなか信用することはできません。もう少し具体的に言えば、AIは、算数のこの問題を間違えたのは、それまでの算数の積み上げに問題があったからと判断したけれど、本当の原因を突き詰めてみると、実は国語でのつまずきに問題があった…というような話はよくあることで、テクノロジーを導入すれば、なんでも改善するわけではないと皆が肝に銘じておくべきです。授業中の子どもの表情から状態を読み取るのも、まだまだ人間の方が得意とする部分の一つでしょう。
原:
サービス導入時に配慮しなければいけない点などはいかがでしょうか。教育業界でDXを推進する際の注意点などもお聞かせください。
竹山:
必要なのは棲み分けだと思います。人に任せればいい部分と、テクノロジーに任せればいい部分があって、今は少し、テクノロジーに任せてはダメな部分まで任せようとしてしまっているのかなと感じています。そのあたりが今後の課題ではないでしょうか。あとサービス導入時の注意点として思い出すのは、やはり今回、私どもの事例で原さんが作ってくれた丁寧なマニュアルですね。あれは本当に助かりました。というのも、教育業界でDXを推進する際、子どもや保護者に配慮するのはもちろんですが、それ以上に、教員たちの心理的障壁を取り除くのが大変というのはよく聞く話です。教える側の余裕、能力の向上、入念な準備などにも気をつける必要があると思います。
原:
自分は当然、普段から当たり前のようにプリンターやスキャナーを使っていますが、これまでプリンターに触れたことがないような小学6年生が利用することを前提としたときには、決してユーザーインターフェースがよいデバイスとは思えなかったです。こんなことを言うと社内で怒られてしまいそうですが、その結果、誰が触っても困らないようなマニュアルづくりを心がけました。丁寧なやりとりといえば、今回、竹山さんとは、導入後も月に一回ペースでミーティングを続けてきました。要望を聞くというよりも、一緒に考えて解決していくという時間をたくさん重ねさせていただき、自分たちが提供するサービスの活用方法や、その可能性についてずいぶん勉強させてもらいました。承諾をいただいて、我々もほぼすべてのログを追っていたのですが、UIだけでなく、機能として足りていない部分が結構あることにも気づかせてもらえたのは大きな収穫でした。
竹山:
たくさんの対話の積み重ねが成功の秘訣でしたね。そういう意味でも、今後、教育業界においてDXを推進されていく中で、ぜひご尽力いただきたいのが、学校と学習塾の連携強化です。今、学校教育の現場でもDX推進の波が押し寄せていると言われている中で、それが実現すれば当然、学校教育を補完する塾の役割も変わってきます。その際、ダイレクトに情報共有できる仕組みがあれば、今以上に、子どものためになる教育が、お互いの得意領域、強みを活かしながら実現できるはずなんです。デリケートな部分ではありますが、これもぜひ実現を目指していただきたいと思います。
原:
確かにこれまでは、こういう話をしても「うまくいった試しがない」というところで立ち止まっていたように思います。まさに私たちDX戦略推進部が、現在、オープンイノベーションに力を入れて活動を続けているのも、竹山さんと同じ問題意識を持っているからです。各種教育リソースや子どもたちの学習ログというのは誰かが牛耳る性質のものではない、今はそのように考えています。それは学校もそうだし、私たちのようなメーカーも、デジタル・プラットフォーム事業者も皆、そう。今後は、自分たちの利益だけではない部分を見据えた取り組みというのが、これまで以上に大事になってくるのではないでしょうか。
竹山:
国内だけに目を向けても、管轄官庁がそれぞれ違ったりするので、例えば、経済産業省と文部科学省といったように府省庁横断的な調整も必要になってくるでしょう。そのあたりは、我々のような私塾の経営者が意見しても、なかなか影響を与えることが難しい領域です。なので、より良い社会づくりに寄与していくことを使命とされているエプソンさんのような会社に動いてもらえると心強いですね。
原:
荷は重いですが頑張ります。自分は今回、教育領域へのアプローチをはじめたときから、人との繋がりに恵まれたという実感があって、もちろん竹山さんもその一人なのですが、結局、教育業界を動かすのは、子どもたちにとって何ができるかを真剣に考えている人たちの力なのだと考えるようになりました。自分も、業界の壁などに惑わされることなく、そして、子どものためにできることは何かという視点を決して忘れずに、DX戦略について考え続けていきたいと思います。
※Epson Connectについては、http://www.epsonconnect.com/よりご覧ください。
※Epson CoCo-Creatorについては、https://www.epson.jp/products/bizprinter/smartcharge/academic/coco/よりご覧ください。
取材実施日:2021年1月
記載の組織名・所属・肩書き・取材内容などは、すべてインタビュー時点のものです