アナログとデジタルを融合したソリューションで、苦戦する飲食業界を支援
セイコーエプソン株式会社(以下エプソン)は、2021年3月~4月にかけて、飲食店のデリバリー販売用の袋にQRコード*付きのラベルを貼り、ブランディングと集客効果を測る、ラベルプリントサービスの実証実験を行いました。今回は、実証実験に参加していただいたリディッシュ株式会社(以下リディッシュ) 代表取締役の松隈剛様と、エプソンP事業戦略推進部 課長の井上吉基がオンライン対談を実施。飲食業界に対する支援策を模索する中で行われた、ラベルプリンターを活用したBtoBtoBビジネスモデルの実証実験。そこから見えたアナログとデジタルを掛け合わせたソリューションの可能性、今後の展望などについて語り合いました。
*QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です。
■松隈剛 様
リディッシュ株式会社 代表的取締役
■井上吉基
セイコーエプソン株式会社 P事業戦略推進部 課長
※本文中は敬称略
松隈:当社では、「飲食店経営を豊かに」をビジョンに掲げ、飲食業界向けに売り上げを伸ばすためのマーケティング、コストを削減するためのファイナンス、クラウドファンディングの支援等のコンサルティングを行っています。また、飲食店向けのソリューションを提供することによって集めたデータを活用して、飲食店の経営を豊かにするプラットフォームづくりも行っています。
井上:御社はクラウドファンディング事業を展開されていますが、どのような強みがあるのでしょうか。
松隈:現在までに200件以上のコンサルティング実績があり、1店舗あたり平均して400~700万円、最高で3000万円ほどの支援金を集めました。飲食店のクラウドファンディングの平均的な支援金額は70万円から80万円ですから、一桁違います。さらにいうと我々は、お店の魅力や強みを引き出し、誰にどんな価値を提供するか、ということを突き詰めて考えていますので、クラウドファンディングに限らず、SNSやペイドメディア等、多角的に提案できるのも強みになっています。
社会課題に向き合う中で見えた、BtoBtoBのソリューションモデル
井上:現在コロナ禍の状況で飲食業界全体が苦しい状況かと思いますが、コンサルティングを行う飲食店などにも、これまでにない変化が起きていますよね。
松隈:そうですね。人々が外食する機会が大きく減り、飲食店の売り上げは大幅に減少しました。そのため、飲食店は収益源の多様化を模索しています。例えばデリバリー販売やテイクアウト、ECサイトでの販売などといったことです。コスト面でいうと、いかに固定費を下げるかということに苦心しています。また、大半の飲食店が赤字に陥ってしまい、借り入れが増えているのが現状です。そんな中で、新たな収益源としてデリバリー販売を開始する飲食店が多いため、当社では、そのように苦境に立たされる飲食店に対して、販売促進やデータ分析によるコンサルティングを行っています。
井上:エプソンも社会課題の解決に貢献する活動をさらに広げようとしています。その一環として、当社のプリンター技術を活用して、コロナ禍に苦しむ飲食店の困りごとを解決することに取り組んでいます。
松隈:それが今回のラベルプリンターを使った実証実験を行うきっかけですよね。
井上:そうなんです。生産量の少ない中小規模の会社が商品のブランディングのためラベルを活用する場合、印刷会社などに依頼すると通常3000枚以上オーダーする必要があります。使いきれずラベルを廃棄したり、途中で訴求内容を変えようとしても変えられなかったりといった困りごとがあります。プリンターを自前で導入するという方法もありますが、小規模の会社が業務用のプリンターを購入するのはハードルが高いですし、デザインの手間がかかるという問題もあります。そんな中、飲食店のコンサルティングを行う御社に、B to B to Bのモデルとして真ん中でハブになっていただき、お取引先である飲食店からの受注を取りまとめていただくことで、コストや工数を抑えたラベルプリントサービスのモデルを構築できるのではないか、と考えたのが、実証実験を計画したきっかけでした。
飲食店はローカルビジネス。だからこそ活きるラベルプリントサービス
井上:御社は、今回の実証実験のどういったところに可能性を感じて参加いただけたのでしょうか。
松隈:ラベルプリントサービスが、飲食店がデリバリー販売の売り上げを伸ばすためのソリューションの一つになると考えたからです。ラベルプリントサービスはほかのプリントサービスに比べて安価で、しかもオンデマンドでデザインを変えることができるという利点があると思います。デリバリー販売だけでなく、チラシなどのアナログ手段とデジタルをうまく組み合わせれば、飲食店の売り上げ向上に役立つとも感じました。
井上:まさに、エプソンのDXが目指すアナログとデジタルの融合です。
松隈:飲食店はローカルビジネスです。地域の人たちと接点を持ち、その人たちに良い体験を提供することが飲食業の本質だと思います。ローカルビジネスなのでアナログなプロモーションは重要で、これだけデジタル化が進んでも地域の人にチラシを配るようなことは有効な販促手法なのです。ですから今回、飲食店がデリバリー販売用の袋に、カラーラベルプリンターで印刷したQRコード付きのラベルを貼るという実証実験のお話をいただいたとき、新しい訴求方法の一つになると考えて引き受けました。デジタル化が進んで逆にアナログの価値が高まっていると思いますし、スマホのディスプレイではなく、リアルな場面で目にすることの訴求力が上がっているとも感じています。
井上:デリバリー販売用の袋にブランディング効果がどれほどあるか、どれだけのエンドユーザーを集められるか、実証実験を通じて理解したいを考えていました。今回のラベルの活用方法はブランディングだけでなく、QRコードによるクラウドファンディングやSNSへの誘導など双方向のコミュニケーションまで含めたものとなっているので、新たな価値を生み出すことができたと感じています。
松隈:今回の実証実験のような取り組みは今までにもあったのでしょうか。
井上:飲食業界を対象にした取り組みではありませんが、全国の産地直売所で生産者や加工組合が手軽に商品のこだわりポイントをアピールするため、カラーラベルプリンターを設置して実証実験を行ったことがあります。好評だったのですが、農家の方にとってデザインやアピールポイントを考えるのが難しいことや、プリンターの利用に慣れていない方も多く、産地直売所の運営者の印刷作業の負担が掛かるなどの課題がありました。その経験も踏まえて、なるべく簡単な方法でラベルを活用できるように工夫したいですし、今後の製品開発にも生かしていきたいと思っています。
飲食業界の困りごとをより理解し、共にソリューションサービスを深化させる
松隈:エプソンさんは当社にはないハードウェアの技術や様々な業界でのネットワークを持っていて、一方、私たちには飲食店経営のノウハウや飲食業界のネットワークがあります。お互いが持っているものを組み合わせれば、今後もっと面白いことができるのではないかと期待しています。飲食業界ではいわゆる“KKD”、勘と経験と度胸が必要な世界だとされています。しかしリディッシュでは飲食店経営を科学したいと思っていて、そこで鍵を握るのはデータです。会計を軸として飲食店に関するデータを多く集め、データ分析によって最適な飲食店経営を考案するつもりです。
井上:エプソンにとっても飲食業界は大きい市場であり、飲食業界の方たちの困りごとを更に理解したいです。また、継続的に収集したデータを分析することで、飲食業界の役に立つソリューションサービスを提案することが、我々の役目だと考えています。
松隈:エプソンさんとは、今回の実証実験で終わらせることなく、さらに検証を重ねて飲食店を豊かにするための取り組みを一緒に行ってもらえると嬉しいです。飲食店の方たちの本業ではないマーケティングやファイナンス、テクノロジーといった分野をサポートしていくことで、飲食店の方たちが料理とサービスを提供してお客さんと向き合っていれば豊かになれる世界をつくっていきたいですね。
井上:これからも、厳しい状況下でもこだわりを持って経営されている飲食店の経営者や、その人たちを応援したいと思っている消費者の方たちをつなげるなど、エプソンならではの取り組みで、飲食業界の課題解決に貢献していきます。
取材実施日:2021年5月
記載の組織名・所属・肩書き・取材内容などは、すべてインタビュー時点のものです