教育の可能性が広がる
デジタルと紙を組み合わせた
新しい学習のカタチ
- 英俊社とエプソンで、教材プリント作成の新サービスをリリース
- 紙とデジタルを組み合わせることで、教育現場のDX化を支援
- 「遠隔教育」「学習ログ」の面から、新しい学習のカタチに貢献
KAWASEMI LiteとEpson Connectを接続することで何ができるのか
入試対策には志望校の過去の入試問題、いわゆる過去問の研究が欠かせません。過去問といえば、赤い表紙が印象的な入試問題集の「赤本」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。大阪にある株式会社英俊社(以下、英俊社)は、この「赤本」を40年以上にわたって出版し続けている老舗の出版社です。毎年入試が終わると中学・高校合わせて約400校の入試問題を編集し、学校ごとの過去問題集に新たに加えて出版しています。
この英俊社と、セイコーエプソン株式会社(以下、エプソン)が協力し、2021年の9月に新しいサービスをリリースすることになりました。英俊社の入試問題データベース「KAWASEMI Lite」に、エプソンのリモート印刷用API「Epson Connect」と接続することで生まれたサービスです。KAWASEMI Liteでは、塾の先生がデータベースに登録されている入試問題を選び、オリジナルのプリントを作成できました。そのKAWASEMI LiteをEpson Connectに接続することで、塾だけではなく生徒の家庭にあるプリンターまで、印刷ログを残しながら遠隔印刷が行えるようになります。この新サービスは、教育業界にどのような可能性をもたらすのでしょうか。
出会いから2年、お互いの抱える課題を協力しながら解決へ
英俊社とエプソンの出会いは、2019年の教育ITソリューション EXPOです。エプソンのP事業戦略推進部で教育領域を担当する原基彰が英俊社のブースの展示に目を止め、英俊社営業部の金子直純さんと名刺交換したことがきっかけでした。
「『エプソンは、教育業界のお客様をデジタル技術でどう支援できるのだろうか?』と模索している中で教育ITソリューション EXPOに足を運んだところ、英俊社さんと出会いました。このとき、金子さんにEpson Connectのメールdeリモート印刷や、スキャンtoクラウド機能などのお話をしたところ、興味を持っていただいたんですよ」(原)
その後、英俊社とエプソンは連絡を取り合い、両者の抱える課題の解決に向けて動いてきました。
英俊社では、塾からの強いニーズがあるにも関わらず、KAWASEMI Liteで国語の長文問題を提供できないことを心苦しく思っていました。問題に掲載される文章の著作権の関係で、塾にPDFデータを公開することで、自由にプリントアウトできるようになってしまう懸念があったのです。そこでエプソンからはEpson Connectの採用を提案。PDFデータをプリンターに送付することで直接プリントが出てくるため、PDFデータ自体の流布されるリスクが低減します。また、そのプリントがどこで何枚印刷されたかの印刷ログが残るので、長文問題にて利用されている小説・論説文の利用数が分かってきます。これによって、著作権者の権利や利益も守ることができるのでは? と考えたのです。
また、エプソン側もEpson Connectを使ったサービスを教育の場で役立てたいという思いがありました。そこで、英俊社と繋がりがある塾と協業し、実証実験を進めることで、新たなサービスの開発に取り組むことができました。
デジタルとアナログをうまく組み合わせた学習スタイルを提案
今、教育業界もデジタル化が進んでいます。生徒にタブレットを配って問題を配信し、画面上で回答してもらう形式の教材がずいぶんと世の中に出てきました。このような教材はデジタルで完結していますが、KAWASEMI Liteの場合は問題が紙で出力されます。この「デジタルで完結せずに、紙も用いる」というほどよいアナログさが、まさにこのサービスの魅力だと、英俊社とエプソンの2人は語ります。
「プリント作りは、先生が問題を選んで体裁を整える作業が非常に煩雑です。この作業をデジタルの力を借りて簡単に行えるようにしたのが、KAWASEMI Lite。しかし、入試がそもそも紙で行われるものなので、教育現場においては、最終的な出力物は紙がいいと考えています。そこで、同じように紙へのこだわりを持つエプソン様となら相性がよさそうだと思ったんですよね」(金子さん)
塾では、完全にはデジタル化に踏み切れないところがあるようです。これには「デジタル化することでどのような教育効果があるのかまだはっきりとわからない」という事情があるのではないかと金子さんは推察します。
「たとえばタブレットで問題が出ても、途中の式はノートに書き、答えだけは画面で解答する方式のものが多いです。それなら、最終的な出力を紙で行う我々のサービスと、そう本質は変わらないのではないかと思うのです。エプソンとしては、紙のメリットも生かしながら、印刷履歴や回収した解答データのデジタル化への橋渡しまでサポートしていければと考えています」(原)
遠隔教育と学習ログがもたらす新たな可能性
2社が協力して提供する「KAWASEMI Lite (エプソンリモート印刷対応)」は、2021年の9月にリリースされる予定です。このサービスが生まれることで、今後教育にどのような可能性が生まれるのでしょうか。そのキーワードは「遠隔教育」と「学習ログの活用」のふたつです。
「遠隔教育」は、Epson Connectに搭載された「遠隔プリント」の機能によって可能になります。従来の通信教育は郵送で教材を配布していましたが、プリンターから教材が出力されることで、郵送で発生していた時間差を短縮できるだけでなく、郵送料も不要です。今後通信教育は遠隔プリントを利用するような形に置き換わっていくかもしれません。
「今までの教育は、教師が生徒に対面で教えるスタイルが基本になっていました。そのため、いい講師や塾はどうしても都市部に集中してしまい、教育の機会が都市部と周辺地域で大きく変わってしまうことが問題になっていました。しかし、最近ではコロナ禍の影響もあり、オンライン教室が増えたため、近隣に住む生徒だけではなく、全国各地や海外の生徒に向けて教育を提供する塾も増えてきています。そういった形式の教育にも、プリンターで教材を提供できる仕組みが整えば、塾も今まで手が出せなかった地域にデジタル通信教育として高い質の教育を展開できるのではないでしょうか」(原)
遠隔地といえば、海外に赴任している家族が、子どもの中学受験に合わせて帰国するケースも多くあります。海外にいる間に、どのように日本の教育を子どもに提供するのかが、駐在家庭の悩みの種でした。しかし、Epson Connectを活用すると、エプソンのプリンターさえあれば、アジア、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカであってもプリントを届けられるので、どこにいても受験勉強ができる可能性が広がります。
また、「学習ログの活用」という面においても、Epson Connectは貢献しています。入試問題は、難易度や活用のしやすさなどの情報があるとさらに使いやすくなります。学習ログによって、どの程度の偏差値の生徒に合った問題なのか、どれだけ多くの生徒が解いているのかがわかれば、「使いやすい問題、使いづらい問題」の区別がつき、生徒に適した問題がわかるようになります。学習ログがあることで、入試問題に付加価値が生まれていくわけです。
「塾の先生にも『国語の教材を作るのは得意だけれど算数は苦手』などの得意・不得意分野があり、うまくKAWASEMI Liteを使いこなしきれていないという声があがっていました。しかし、学習ログが蓄積されることで、ますます入試問題を活用しやすくなると思います」(金子さん)
最後に、このサービスにどのような展開を期待しているのか、両社の2人に伺いました。
「私たちが扱っているのは入試問題ですが、教育は入試問題がすべてではありません。ですから、Epson Connectをきっかけに、さまざまな教育関連の会社が繋がることで、教育の新しい形を世の中に出していけるといいですよね。弊社はそのなかの入試問題の分野で協力していければと思っています」(金子さん)
「学習ログを見ていると、塾や学校の先生方は、相当遅い時間まで仕事をされています。そういった先生方の業務負担を改善するところまで貢献できたらいいですね」(原)
まだまだ始まったばかりのKAWASEMI Lite (エプソンリモート印刷対応)。今後多くの人に利用されるにつれて、新たな可能性が見えてくるはずです。両社の協業サービスは、今後教育業界にどのような変化をもたらしてくれるでしょうか。今後の展開に期待が高まります。
※Epson Connectについては、http://www.epsonconnect.com/よりご覧ください。
取材実施日:2021年8月
記載の組織名・所属・肩書き・取材内容などは、すべてインタビュー時点のものです